「富は海水に似ている。飲めば飲むほど渇く(ショーペンハウアー)」(『結界(下)』,津谷一,ダイレクト出版株式会社)
○ 人間の欲望は必ずしも本能(自然)に基づくものではないだけに,喉の渇きが水を飲むことによって簡単に癒やされるのとは異なり,自分の意志でブレーキを掛けない限り,とどまる所を知らず,どこまでも肥大化していきます。自分の意志でブレーキを掛けない限り,たとえどれだけ多くのものを手に入れたとしても私たちの心が満ち足りる(癒やされる)ということはなく,むしろ,欲望の肥大化に伴って不満ばかりが募っていきます。不満ばかりを募らせた挙げ句,生きていくのに必要なものはすでに十分に持っているにもかかわらず,自分は不幸であるなどと思い込むようにさえなってしまいます。他方,自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛け,必要以上に欲張ることさえやめれば,私たちは,自分が生きていくのに必要なものだけで満足することが可能になります。そして,自分が生きていくのに必要なものだけで満足できるようになるなら,他者と競い合い,パイを奪い合い続ける必要もなりますし,自然環境に過大な負荷をかけることもなくなりますし(自然環境を取り返しがつかないほどに破壊してしまう危険性も低下しますし),常に満ち足りた気持ちで幸せな人生を送ることは,格段に容易になるはずです。人間の欲望には限りがないということを十分に自覚し,より多くのものを手に入れることではなく,自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛けられるようになることをこそ目指したいものです。(4)(6)関連