「これはまたエピクロスの言葉ですが,「自然に従って生きれば,君は決して貧しくはならない。世俗の欲望に生きていたら,決して豊かにならない」という。自然の要求は僅かですが,世俗の欲望には限りがないからです。(セネカ)」(『ローマの哲人 セネカの言葉』,中野孝次,岩波書店)
○欲望は生の証(あかし)であり,欲望を満たそうとすることは,生き物にとって自然なことです。しかし,人間の欲望は,苦しみや悲しみの種でもあります。人間の欲望は,必ずしも本能に基づくものではないだけに,放って置けばどこまでも肥大化していくからです。実際,私たちは,自分の欲望に強い意志を持って意識的にブレーキを掛けない限り,たとえどれだけ多くの物(必要以上の物)を持っていたとしても,満ち足りるということがありません。常に不満を抱えたまま心貧しく,死ぬ瞬間まで,自分の欲望に追い立てられ,振り回される形で,より多くの物を追い求め続けることになってしまいます。他方,自分の欲望にブレーキを掛けることさえできれば,たとえ必要最小限の物しか持っていなかったとしても,満足することが可能になります。常に満ち足りた気持ちで心豊かに幸せな人生を送りたいと願うのであれば,私たちは,必要以上に欲張ることなく,たとえそれが必要最小限の物であったとしても,自分が持っている物(自分に与えられた物)だけで満足できるように,自分の欲望にブレーキを掛けられるようになる必要があるのではないでしょうか。(4)(6)関連