「老子は欲望・羨望(せんぼう)・競争のうずまく都市文明に背を向け,小さな村落で農業にいそしんで静かに自給自足する生活,小国寡民(しょうこくかみん)を理想としました。」,「老子は自然の道から命をあたえられた者たちが,その命を安らかにまっとうして生きられる平和な世界を,何よりも希求したのです。」,「過剰な欲望が渦巻き,戦争さえ引き起こす文明を批判し,自然の中で自給自足する簡素な生活に満ち足りた幸せを求める老子の教えには,すべての人が命をまっとうできる平和への切なる願いがあります。」(『もういちど読む山川倫理 PLUS 人生の風景編』,小寺聡編,山川出版社)
○人間の欲望には限りがありませんので,欲張り続ける限り,たとえどれだけ多くの物(生きていくのに必要以上の物まで)を持っていたとしても,私たちの心が満ち足りるということはなく,また,他者はパイを奪い合う競争相手(敵)にならざるを得ません。しかし,欲張り続けることさえやめるなら,たとえ生きていくのに必要最小限の物しか持っていなかったとしても,私たちは満足することが可能になりますし,また,他者と敵対することなく,仲良く助け合うことが可能になります。常に不満を抱え,常に他者と競い合いながら贅沢(ぜいたく)な暮らし(有り余るほどの物を持っている暮らし)をするのと,常に満ち足りた気持ちで他者と仲良く支え合いながら質素な暮らし(必要最小限の物しか持っていない暮らし)をするのと,どちらの暮らしが本当に幸せな暮らしと言えるでしょうか。これだけ豊かな社会(私たちが暮らしている社会は,物質的には人類史上最も豊かな社会と言えます。)を手に入れたのですから,私たちはそろそろ必要以上に欲張ることはやめ,物質的な豊かさをある程度は犠牲にしてでも自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛けられるようになる必要があるのではないでしょうか。(4)(6)(21)関連