「贅沢(ぜいたく)なものは感覚的な快楽をあたえてくれますが,私たちはすぐにその刺激に慣れて飽きてしまい,より刺激的な快楽を求めます。人間は限りない官能的,刹那的な快楽を求めて人生の時間と労力を費やし,みずらを消耗させていきます。」,「(エピクロスは)むしろ質素な生活の中でみずからに満足すること,アウタルケイア(自足)にこそ本当の幸福があると説きます。・・・贅沢を必要とせず,わずかなもので満足できる悠々自適の生活に,もっとも大きな快楽が味わえるのです。」(『もういちど読む山川倫理 PLUS 人生の風景編』,小寺聡編,山川出版社)
○人間の欲望には限りがありませんので,欲張り続ける限り,たとえどれだけ多くのものを,たとえどれだけ贅沢(ぜいたく)な暮らしを手に入れたとしても,私たちの心が満ち足りるということはありません。常に不満を抱えながら(自分は不幸であると思い込みながら),死ぬ瞬間まで,より多くのものや,より贅沢な暮らしを追い求めてあくせくし続けることになってしまいます。他方,欲張り続けることさえやめれば,たとえ必要最小限のものしか持っていなかったとしても,たとえどれだけ質素な暮らしをしていたとしても,私たちは満足することが可能になります。常に満ち足りた気持ちで心安らかに(質素に暮らしながらも心豊かに)幸せな人生を送ることが,格段に容易になります。他者や他国と共存共栄できるようになるためにも,また,持続可能性の高い(自然環境に過度の負荷をかけることのない)社会を実現するためにも,私たちはそろそろ,多くのものや贅沢な暮らしを手に入れることにではなく,足るを知り,自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛けられるようになることにこそ,関心を払い,力を注げるようになる必要があるのではないでしょうか。(4)(6)(21)関連