「何も起きないことが生身の人間たちにとっては実はいちばん幸福なことなのですけれど,メディアはそれを喜ばない。劇的変化が,政治でも経済でも文化でも,どんな領域でもいいから,起こり続けること,メディアはそれを切望します。政権が交代するとか,株価が暴落するとか,無差別殺人が犯されるとか,アイドルが薬物使用で逮捕されるとかするとテレビの視聴率ははね上がり,新聞の部数は伸びる。」(『街場のメディア論』,内田樹,光文社)
○私たちは,災害や事故や事件などの否定的な出来事や情報に焦点を当てて報道する傾向のあるマスメディアの影響もあり,世の中の否定的な側面ばかりに目を向けがちです。そして,世の中を過度に否定的に捉えるようになっては,いま自分の目の前にある幸せに気づくことさえできなくなってしまいがちです。しかし,世の中の否定的な側面ばかりに目を向けるのは,世の中の肯定的な側面ばかりに目を向けるのと同じく,余りにも偏った不公平なものの見方と言えるのではないでしょうか。世の中に否定的な側面があるのは事実ですが,世の中に肯定的な側面があるのも事実です。私たちは,放って置けば世の中の否定的な側面ばかりに目を向けてしまいがちなのですから,世の中の肯定的な側面にこそ積極的かつ意識的に目を向ける習慣を身に付ける必要があるのではいないでしょうか。世の中を肯定することができなければ,この世の中で生きていることや,この世の中に生まれてきたことに感謝したり,幸せを感じたりすることなど絶対にできないのですから。私たちは,世の中を否定し,不幸になるためにではなく,世の中を肯定し,幸せになるためにこそ生きているのであり,この世の中に生まれてきたのですから。(5)(9)関連