「ほんとうに黙することのできる者だけが,ほんとうに語ることができ,ほんとうに黙することのできる者だけが,ほんとうに行動することができる。」(『現代の批判 他一篇』,キルケゴール,桝田啓三郎訳,岩波書店)
○「知る者は言わず」と言うように,物事を深く知れば知るほど,それに伴って分からないことも増えてくるため,発言は慎重になり,口数は少なくなっていくものです。逆に,「言う者は知らず」と言うように,物事を浅くしか知らない人は,生半可な知識を得て何でも分かったつもりになってしまうので,黙っていることが難しく,何事にも余計な口を差し挟もうとしてしまいがちです。また,知識は,十分に咀嚼(そしゃく)・消化され,「生活の知恵」として血肉化されてこそ,私たちの考え方や生き方に影響を与えることができるのであり,単なる知識として頭に詰めこまれるだけでは,私たちの考え方や生き方にほとんど影響を与えることができません。広くて浅い知識をどれだけたくさん頭に詰め込んだところで,実生活においてはほとんど役に立たず(知識をひけらかすことくらいにしか役に立たず),自分を人間的に成長(成熟)・向上させることにもつながっていきませんので,自分にとって本当に必要な知識を十分に掘り下げ,体得することにこそ,限りある大切な時間やエネルギーを使いたいものです。(12)(後書き)関連