「およそ語られうることは明晰に語られうる。そして,論じえないことについては,ひとは沈黙せねばならない。」(『論理哲学論考』,ウィトゲンシュタイン,野矢茂樹訳,岩波書店)
○自分の気持ちや考えを他者に正しく伝えたいと望むのであれば,できる限り分かりやすく,相手に受け入れられやすい形で伝えることをこそ,心がける必要があるのではないでしょうか。分かりやすく伝えることができないのであれば,それは自分でもよく分かっていないからこそなのでしょうから,そのようなことを他者に伝えるべきではないと思います。そのようなことを他者に伝えても,相手を混乱させ,相手に誤解を与えるだけで,こちらの気持ちや考えが相手に正しく伝わる可能性はゼロに近いと思います。また,相手の心に届かない伝え方をするくらいなら,どうせこちらの気持ちや考えは相手に正しく伝わらないのですから,何もしない方がましです。なお,分かりやすく伝えられないことの中には,自分の理解が足りないために分かりやすく伝えられないことと,そもそも,どんなに頑張っても理解し得ず,そのために分かりやすく伝えることが不可能なことがあります。前者については,その理解に努め,十分に理解した上で,できる限り分かりやすく他者に伝えればよいと思いますが,後者については,自分には理解し得ず,分からないものとして,沈黙を守り,自分の心の中にとどめて置くのが賢明なのではないでしょうか。(前書き)(17)関連