「知る者は言わず,言う者は知らず」と言うように,人間は本来,物事を深く知れば知るほど,それに伴って分からないことも増えてくるため,発言は慎重になり,態度は控え目(謙虚)になっていくのが自然であると思います。実際,「深い川は静かに流れる」とも言うように,年齢を重ね,人生経験を積み,物事について深い知識を有する老人は,若年で,人生経験の乏しい,物事について浅い知識しか有していない若者に比べ,口数が少なく,物静かであるのが普通です。しかし,「空き樽(だる)は音が高い」とも言うように,慢心した人間は,物事を浅くしか知らないにもかかわらず(物事を浅くしか知らないがゆえに),生半可な知識を得て何でも知っているつもりになってしまうので(自分は無知であるという自覚を失ってしまうので),黙っていることが難しく,とかく自己顕示的に自分の知識をひけらかしたり,何事に対しても余計な口を差し挟んだりしてしまいがちです。また,行動にもためらいがなく,他者に対しては横柄で尊大な態度を取りがちです。加えて,慢心し,何でも知っているつもりになってしまっている人間は,それ以上知ろうとする意欲を失いやすいため,その人生は,年齢と共に謎が深まり,神秘さを増すというふうにはならず,分かり切った,深みのない,退屈なものになってしまいがちです。