現代の日本のような豊かで安全で便利な社会で暮らしていると,人間は独りでは生きていられない,孤立無援の状態では生きていられないという事実を,ついつい忘れてしまいます。特に,親の愛情に恵まれずに育った人は,自分は誰にも頼らずに自分独りの力で,これまで生きてきたし,これからも生きていくとの思いが強いかも知れません。しかし,実際には,目に見える直接的なものも目に見えない間接的なものも含め,数知れぬ他者の支えや助けがあればこそ,私たちはこれまで生きてこられたのだし,これからも生きていけるのです。例えば,生きていくのに欠かすことのできない衣・食・住のどれ一つを取っても,完全に自給自足できている人など,少なくとも現代社会にはいないのではないでしょうか。このような豊かで安全で便利な社会で暮らすことができるのも,分業という協力体制の下で,私たちが互いに支え合い,助け合っている(私たちがそれぞれに自分の役割を分担し,果たしている)からこそです。私たちが生きていられるのは他者のお陰であり,私たちは, 他者を信じ,他者を頼らなければ生きていられないのですから,生きるとは他者を信頼することである,といっても過言ではありません。この世の中から詰まらない対立や争い事をなくすためにも,人間は独りでは生きていられないという事実を,そして,他者に対する感謝の気持ちを,決して忘れないようにしたいものです。