他者が不幸な状況にあることは,決して「対岸の火事」などではありません。「明日は我が身」,「昨日は人の身,今日は我が身」です。私たちは,他者と支え合い,助け合ってこそ生きていられるのであり,私たちと他者は持ちつ持たれつの相互依存関係,言わば運命共同体,一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係にあるわけですから,不幸な状況からなかなか抜け出せずにいる他者が幸せになるための手助けをすることは,たまたま境遇や幸運に恵まれるなどして一足先に幸せな人生を送ることができている人間にとっての,当然の務めであると思います。それは決して,見返りや報酬(相手からの感謝や世間からの称賛など)を期待しながら,あるいは,優越感を味わいながら行うようなことではなく,当たり前のこととして,望むらくは,自分の方が境遇や幸運に恵まれていることなどでの負い目を感じながら慎み深く行うべきことであると思います。上から目線で相手をコントロールするようにして行われる手助けは,手助けを行う当人のプライドを高める役には立ちますが,相手のプライドを深く傷つけるとともに,相手の自信や主体性を奪い,自分の人生を自分の努力によって切り開いていこうとする相手の意志や勇気を失わせるだけであり,実質的な手助けにはなりません。他者に対する手助けは,相手のプライドを傷つけることなく,相手の自信や主体性を何よりも大切にしつつ,自分の人生を自分の努力によって切り開いていこうとする相手の意志や勇気を失わせないためにこそ行うのだということを,くれぐれも忘れないようにしたいものです。