「文明とは人の身を安楽にして心を高尚にするをいうなり,衣食を饒(ゆたか)にして人品を貴(たっと)くするをいうなり。」(『文明論之概略』,福沢諭吉,岩波書店)
○私たちが暮らしている社会は,人類史上最も豊かで安全で便利な社会と言えますが,私たちは,人類史上最も立派で高尚で上品な人間と言えるでしょうか。「衣食足りて礼節を知る」と言いますが,暖衣飽食(美衣美食)の時代に生きている私たちは,本当に礼儀正しく節度を備えた人間と言えるでしょうか。ここ数十年における社会の進歩・発展や生活水準の向上には目を見張るものがありますが,社会の進歩・発展や生活水準の向上に伴って,私たちの幸福度は本当に上がっているのでしょうか。もちろん,このような豊かで安全で便利な社会において暖衣飽食の生活を送れるということは,とても有り難いことですが,私たちは,社会の進歩・発展や生活水準の向上に関心を払い,力を注ぐばかりで,私たちが人間的に成長(成熟)・向上することや,私たちの幸福度を上げることなどに対しては,これまでほとんど関心を払うことなく,力を注いでこなかったのではないでしょうか。しかし,物質的にいくら豊かになったところで,それに心の豊かさが伴わないのなら,それは真の豊かさとは言えませんし,社会の進歩・発展や生活水準の向上と私たちの幸福度が比例しないのだとしたら,そのような形での社会が進歩・発展し,生活水準が向上することに,いったいどのような意味があるのでしょうか。このような豊かで安全で便利な社会において暖衣飽食の生活を送れることの有り難さを十分に噛(か)み締めつつ,自分を人間的に成長・向上させることや自分の幸福度を上げることなどに,もっと関心を払い,力を注げるようになりたいものです。(4)(6)(20)関連