「マルクスによると,このようなグローバリゼーションは,現状に満足する気持ちを蝕(むしば)み,あえて作りだされた欲望を満たすための,本来,必要でない製品を生み出すことになった。」(『137億年の物語』,クリストファー・ロイド,野中香方子訳,文藝春秋)
○人間が他の生き物と最も異なるところは,生きていくのに必要のない物まで手に入れたがるところなのかも知れません。しかし,生きていくのに必要のない物まで手に入れようと欲張る気持ちが,社会の進歩・発展や生活水準向上の原動力になっていた点は否めませんが,必要以上に欲張り続ける限り,たとえどれだけ多くの物を手に入れたところで,私たちの心が満ち足りるということはありません。自分の人生に対して常に不満を抱えたまま,死ぬ瞬間まで,自分の欲望に追い立てられ,振り回される形で,より多くの物を必死になって追い求め続けることになってしまいます。自分の人生に満足したいと望むのであれば,すなわち,常に満ち足りた気持ちで幸せな人生を送りたいと望むのであれば,必要以上に欲張ることをやめ,自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛けられるようになる必要があるのではないでしょうか(そのためには,必要以上に欲張ることを奨励したり,そそのかしたりする社会の風潮を改める必要もあります。)。社会の進歩・発展や生活水準の向上と私たちの幸福度が比例しないのだとしたら,これ以上社会が進歩・発展することや生活水準が向上することに,いったいどのような意味があるのでしょうか。私たちは,自分の欲望にブレーキを掛け,自分の人生に満足できるようになった後にこそ,より善い,より人間らしい社会の実現を目指して努力や工夫を重ねるべきなのではないでしょうか。(4)(6)(20)関連