欲望は生の証(あかし)であり,欲望を満たそうとすることは生き物にとって自然なことです。しかし,人間の欲望は苦しみや悲しみの種でもあります。「欲に底なし」,「欲に頂(いただき)なし」,「持てば持つほど欲が出る」,「思う事一つ叶(かな)えばまた一つ」,「千石取れば万石望む(千石を取れば万石を羨む)」,「亀の年を鶴が羨む」などとも言うように,人間の欲望は,必ずしも本能(自然)に基づくものではないだけに際限がなく,放って置けば,とどまる所を知らず,どこまでも肥大化していくからです。欲望の肥大化に,いつまでたっても満足が追いつけないからです。当然のことながら,欲望の肥大化を(私たちが必要以上に欲張り続けることを)歓迎したり,奨励したり,そそのかしたりするような社会にあっては,欲望はなおさら肥大化していきます。人間が他の生き物と最も異なるところは,生きていくのに必要なものだけでは満足できず,生きていくのに必要のないものまで欲しがり,手に入れたがるところかも知れません。