「いわゆる頭のいい人は,言わば足の早い旅人のようなものである。人より先に人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに,途中の道ばたあるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす恐れがある。」(「科学者のあたま」(『寺田寅彦随筆集第4巻』所収),岩波書店)
○効率(能率)が重視される社会においては,早さが求められます。物事を処理する早さが競われ,早ければ早いほど高い評価が得られます。一定時間内にどれだけ多くの問題を解くことができるかということで,入学できる学校も,入社できる会社も,ほぼ決まってしまいます。しかし,冷静に考えてみれば,人生において,物事を手早く処理することに,いったいどれだけの価値や意味があるのでしょうか。物事を手早く処理できる能力より,物事にじっくり取り組み続けられる能力の方が,よほど重要なのではないでしょうか(長年にわたって怠ることなく何かに取り組み続ければこそ,才能の有無にかかわらず,上達もし,相応の成果も得られるのですから。)。「早い者に上手(じょうず)なし」とも言います。物事を手早く処理することよりも,物事にじっくり取り組み続けることをこそ心がけたいものですし,そのような人間が正しく評価されるような社会になってもらいたいものです。なお,読書に際しても,効率重視の速読ではなく,熟読・精読を心がけ,読書の途中で立ち止まってじっくり考えたり,じっくり味わったりする時間をこそ大切にしたいものです。(12)(13)関連