「二千年にわたり,さまざまな文化の違いを越えて,欲望について深く考えてきた人々がたどりついたのは,自分が欲しいと思うものをすべて手に入れようとして日々をすごす生き方は幸福も心の平静も決してもたらさないという結論であった。」(『良き人生について』,ウィリアム・B・アーヴァイン,竹内和世訳,白揚社)
○欲張れば切りがなく,欲張り続ける限り,たとえどれだけ多くの物を持っていたとしても,私たちの心が満ち足りるということはありません。常に不満を抱えたまま,死ぬ瞬間まで,他者と競い合い,パイを奪い合う形で,よく多くの物を必死になって追い求め続けることになってしまいます。場合によっては,不平不満,妬みそねみ,恨みつらみ,失意失望,自暴自棄といった心理状態に自分を追い込んだ挙げ句,自分は不幸であるなどと思い込むようにさえなってしまいます。確かに,私たち人類が欲張り続けたからこそ,社会は繁栄し続け,生活水準は向上し続けたのでしょうが,どれだけ社会が繁栄し,生活水準が向上したところで,それらが私たち人類に幸せや心の平安をもたらしてくれないのだとしたら,社会が繁栄し,生活水準が向上することに,いったいどのような意味があるのでしょうか。このような社会で暮らせることや,このような生活を享受できることに満足し,感謝できるようになるためにも(ひいては,自然環境にこれ以上の負荷をかけることなく,持続可能な社会を実現するためにも),また,常に満ち足りた気持ちで,他者と仲良く助け合い,幸せを分かち合うような人生を送れるようになるためにも,私たちは,欲張ることをやめ,足るを知ることを学ぶ必要があるのではないでしょうか。より多くの物を手に入れることにではなく,自分が持っている物で満足できるように自分の心の持ち方を改めることにこそ,関心を払い,力を注ぎたいものです。(前書き)(1)(4)(6)(14)(20)関連