善人として生きるか悪人として生きるかを最終的に決めるのは本人ですが，周りの人間が及ぼす影響も決して小さくありません。実際，「人を見たら泥棒と思え」とばかりに私たちが他者の心の中に住む悪人にしか目を向けなければ，「疑心暗鬼を生ず」ということもあり，その他者は私たちの目の前に悪人としてしか立ち現れてくることができません。私たちだって，他者からそのような目を向けられ続ければ，善人として振る舞い続けることが馬鹿らしくなり，いっそのこと悪人として振る舞って仕返しをしたくなってしまうのではないでしょうか。逆に，「渡る世間に鬼はなし」ということを信じて私たちが他者の心の中に住む善人に目を向け続けるなら，その他者は私たちの目の前に善人として立ち現れてくることが可能になります。たとえそれまでは悪人として振る舞い続けていた人間であったとしても，私たちがその人間の心の中に住む善人に目を向け続け，その善人を呼び覚ますことができるなら，その人間は善人の真似をして善人として振る舞う気持ちになるかも知れません。「鬼にもなれば仏にもなる」，「猫にもなれば虎にもなる」などとも言うように，他者は，私たちの対応次第で悪人にも善人にもなり得るということです。
