自分が持っているものをできる限り減らして生活してみることは（できる限り質素な暮らしをしてみることは），自分が持っているものの豊かさや，自分がそれらのものを持っていることの有り難さに気づいたり，自分が生きていくのに本当に必要なもの（自分が生きていくのに本当は不必要なもの）を見極めたり，欲求不満に対する耐性を養ったりする上において，とても意味のあることであると思います。また，質素な暮らしは，その価値を得心できないまま他者に強制されれば，ただの貧しくて惨めな暮らしかも知れませんが，足るを知る人が，その価値を十分に納得した上で自分の意志で選択するなら，かえって心豊かで味わい深い「シンプル・ライフ」になり得ます（私たちは，昔の農民の質素な暮らしを貧しくて惨めな暮らしと勝手に決め付けがちですが，それは，ただ単に私たちが昔の農民より欲深くなったことを示しているに過ぎないのかも知れません。）。しかし，自分が持っているものをできる限り減らして生活してみることは，あくまでも，感謝する気持ちを思い起こしたり，必要以上の物欲にブレーキを掛けられるようになったりすることに意味があるのであり，自分が持っているものを減らすこと自体が目的なのではありません。したがって，感謝する気持ちを思い起こして足るを知り（たとえそれが必要最小限のものであったとしても，自分が持っているものだけで満足できるようになり），必要以上に欲張ることなく，自分が持っているものだけで満足できるようになった暁には，自分が持っているものを減らすことに，それほどこだわる必要はないのではないでしょうか。不必要なものに執着し，それらの虜（とりこ）になってしまわないように用心をする必要はあると思いますが，それらに執着しないでいられるなら，それらを親の敵のように忌み嫌う必要まではないということです。むしろ，自分が持っているものの豊かさや，自分がそれらのものを持っていることの有り難さに常に深く思いを致し，心から感謝しつつ，それらを無駄遣いすることなく，他者や社会のためにも役立つように，できる限り有効活用することをこそ心がけるべきなのではないでしょうか。
