「欲しいものを何もかも手に入れることにより幸福を達成するというのは,いかにも分かりやすい方法であり,有史以来さまざまな文化にわたって,ほとんどの人びとがこの戦略を使ってきた。だがその戦略には大きな落とし穴があることを,それこそ有史以来さまざまな文化にわたって,思慮深い人びとは気づいていたのだった。」(『良き人生について』,ウィリアム・B・アーヴァイン,竹内和世訳,白揚社)
○自分の欲望を満たし,満足(幸福)を得る方法としては,大きく分けて,自分が欲している物をすべて手に入れるという方法と,必要最小限の物だけでも満足できるように自分の欲望を減らす(できる限り無欲に近づく)という方法の二つがあります。前者は積極的で前向きな印象を与え,後者は消極的で後ろ向きな印象を与えますが,改めて言うまでもなく,実現可能性が高いのは後者です。前者を実現することは,ほぼ不可能と言ってもいいくらいです。したがって,前者を選択した場合には,どれだけ努力をしたとしても十分な満足を得ることは難しく,むしろ,不平不満ばかりを募らせては,自分は不幸であるなどと思い込むようになってしまうのが落ちです。確かに,先人たちが前者を選択し,努力し続けてくれたからこそ,現在見られているように社会も繁栄し,生活水準も向上したのかも知れませんが,社会の繁栄や生活水準の向上が私たちの満足度(幸福度)と比例しないのだとしたら,今後さらに社会が繁栄し,生活水準が向上していくことに,いったいどのような意味があるのでしょうか。もちろん,社会が繁栄し,生活水準が向上していくことは,とても有り難いことではありますが,私たちはそろそろ,後者の,自分の欲望を減らすという方法についても,真剣に検討を始めるべきなのではないでしょうか。(4)(6)(20)関連