「ある人間をにくむとすると,そのときわたしたちは,自分自身のなかに巣くっている何かを,その人間の像のなかでにくんでいるわけだ。自分自身のなかにないものなんか,わたしたちを興奮させはしないもの。」(『デミアン』,ヘルマン・ヘッセ,実吉捷郎訳,岩波書店)
○誰の心の中にも善人と悪人が同居しています。完全な善人,完全な悪人などというものは,この世の中に存在しません。他者の心の中に住む悪人にばかり目を向け,すぐに相手を嫌ったり,不寛容に責め立てたりするのは,自分の心の中に住む悪人に気づけていないことの,すなわち,心の目が曇っていて,あるがままの現実を見ることができていないことの証左なのではないでしょうか。自分の心の中に住む悪人にしっかり気づけているなら,他者の心の中に住む悪人にも,もう少し寛容になり,すぐに相手を嫌ったり,厳しく非難したりするようなことはないはずです。どのような善人の心の中にも悪人は住んでいるのですから,他者の心の中に住む悪人に不寛容である限り,いつしか周りは敵ばかりになってしまい,最終的には孤立無援状況に陥らざるを得なくなってしまいます。そのような不幸な状況に陥らないようにするためにも,自分の心の中に住む悪人にしっかり気づけるようになりたいものです。(9)(14)(17)関連