「賢者ソクラテスは,いっさいの余分なもの,つまり飢えをしのぐためではなくて食道楽に耽(ふけ)るための食物を自ら節制し,弟子たちにもそうするように説いた。・・・けっして飽食することなく,まだもっと食べたいくらいのときに食卓を去るようにすすめた。」(『文読む月日(上)』,トルストイ,北御門二郎訳,筑摩書房)
◯欲望を満たすことは自然なことであり,私たちが生きていくためにも最低限の欲望は満たされなければなりませんが,人間の欲望は放っておけば際限なく肥大化する傾向があり,欲望の肥大化に意識的に歯止めをかけない限り,満ち足りるということが難しくなってしまいます。そして,その結果,ますます多くのものを欲しがるようになり,必然的にますます満ち足りない気持ち募らせるようになり,挙げ句の果てには,自分は不幸であると錯覚するようにさえなってしまいます。幸せであるためには足るを知ることが欠かせませんが,足るを知るためには(他者に強制されてではなく)自分の意志で欲望の肥大化に歯止めをかける必要があります。欲望の肥大化を自制できるようになるためにも,自分が今ここでこうして生きていられることの有り難さを常に噛(か)み締めつつ,日頃から節制を心がけるようにしたいものです。(2020年3月31日)