「思えば思われる」,「魚心あれば水心」,「子供好きは子供が知る」などとも言うように,大抵の場合,こちらが心を開いて友好的な態度で接すれば,相手も心を開いて友好的な態度で接してきてくれますし,逆に,こちらが心を閉ざしたまま敵対的な態度で接すれば,相手も心を閉ざしたまま敵対的な態度で接してきます。これが普通の人間関係です。人間関係はお互い様であり,どちらか一方だけが悪い,どちらか一方だけが善いなどということは,滅多にありません。なお,前者の人間関係においては互いに心を通い合わせることが可能ですが,後者の人間関係においては意味のある対話をすることさえ不可能です。極端な話,相手との間に深い信頼関係が築かれていれば,何も話さなくても「以心伝心」で分かってもらえますが,相手との間に信頼関係が築かれていなければ,「馬耳東風」,「暖簾(のれん)に腕押し」,「糠(ぬか)に釘(くぎ)」,「豆腐に鎹(かすがい)」,「石に灸(きゅう)」であり,どれだけ話しても分かってもらうことはできません。口論や多くの議論が不毛な理由は,ここにあります。信頼関係が築かれており,友好的な関係にある者同士の議論は,相互理解に基づき,心を一つにして物事をより善いものにすることが主たる目的になりやすいため,総じて実り多いものになりがちですが,他方,信頼関係が築かれておらず,敵対的な関係にある者同士の議論は,互いに相手を理解できないまま,相手を打ち負かすことが主たる目的になりやすいため,総じて不毛なものになってしまいがちです。