何事にも一長一短があり,例えば,老いることや病気になることや死ぬことにさえ肯定的な側面があります。実際,私たちは,老いることによって欲望の肥大化が自然に抑えられ,足るを知ることがより容易になりますし,財産や地位や権力や名声などに対する執着からも解放され,他者を競争相手(敵)ではなく協力相手(味方・仲間)と見なしてて仲良く助け合ったり,生きる喜びや幸せを分かち合ったりすることがより容易になります。現在,社会の高齢化が大きな問題になっていますが,社会が高齢化するにつれて戦争や犯罪は減少する傾向があるとも言われています。また,私たちは,病気になることによって健康や命や他者の支えや助けの有り難さを痛感し,ただ健康でいられるというだけで,ただ生きていられるというだけで幸せを感じられるようになりますし,他者に対する感謝の気持ちを心に深く刻み付けられるようにもなります。死ぬことにさえ肯定的な側面はあります。実際,もし人間が不死身なら,世の中は人間で溢(あふ)れ返ってしまい,新たに人間が誕生する余地がなくなってしまいますし,そもそも,死があるからこそ生きる喜びがあり,生きる喜びがあるからこそ私たちは,ただ生きているということにさえ感謝したり,幸せを感じたりすることができるのではないでしょうか。そして,生きていることそれ自体に感謝したり,幸せを感じたりすることができればこそ,たとえどのような逆境にあったとしても,たとえどのような不運に見舞われたとしても,生きている限りは幸せであり続けることが可能になるのではないでしょうか。もっとも,死を体験したことのある人間などいないのですから,死んでからのことは誰にも分からず,死を否定的なものとして捉えること自体が間違っている可能性もあるわけでが。