「患者のパワーを弱くするのは,周囲からのコントロールであり,強くするのは自己コントロールである。」(『中井久夫集 11 患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い』,みすず書房)
○困っている人や苦しんでいる人の手助けをするのは,人間として当然の務めです。上から目線で優越感を味わいながら,あるいは,何らかの見返りや報酬(相手からの感謝や世間からの賞賛など)を期待しながら行うようなことではありません。むしろ,多少の負い目(自分の方が境遇や幸運に恵まれていることなどでの)を感じながら行うべきことです。なぜなら,私たちは,他者と支え合い,助け合ってこそ生きていられるのであり(実際,例えば,衣・食・住のどれ一つを取っても,完全に自給自足できている人などいないはずです。),私たちと他者は本来一体だからです。特に,上から目線で優越感を味わいながら相手をコントロールするようにして行われる手助けは,手助けを行う当人の自尊心を高める役には立ちますが,相手の自尊心を深く傷つけるとともに,相手から自信や主体性を奪い,自分の人生を自分の努力によって切り開いていこうとする相手の意志や勇気を失わせるだけであり,実質的な手助けにはなりません。他者に対する手助けは,相手の自尊心を傷つけることなく,相手の自信や主体性を大切にしながら,自分の人生を自分の努力によって切り開いていこうとする相手の意志や勇気を強化するためにこそ行うのだということを,くれぐれも忘れないようにしたいものです。(11)(19)関連