私たちが暮らしている社会は,人類史上最も豊かで安全で便利な社会と言えますが,私たちは,そのような社会で暮らせることに喜んだり,感謝したりするどころか,むしろ,そのような社会で暮らせることを当たり前と思い,不平不満ばかりを募らせてしまいがちです。欲望の肥大化に満足が追い付けず,どのような恵まれた状況にも,すぐに飽き足りなくなってしまいます。具体的には,暖衣飽食の生活を送る中で,自分の人生は自分の思い通りになると思い上がるようになってしまい(自分の人生を自分の思い通りにしたいと欲張るようになってしまい),自分が今ここでこうして生きていられることの有り難さに深く思いを致すことができなくなってしまったり,自分の欲望を充足させることを人生の最優先事項とし,その他のことをないがしろにするようになってしまったり(欲に目を暗ませて本当に大切なものが見えなくなってしまったり),場合によっては,欲に目を暗ませるがままに道を踏み外すようになってしまったり,普通の平凡な人生では満足することができず,そのような人生を,無価値な,あるいは,価値の低い人生と見下すようになってしまったり,財産や地位や権力や名声などに執着しては他者と敵対するようになってしまったりした挙げ句,ままならない人生に対する不平不満ばかりを募らせるようになってしまったり,人生が自分の思い通りにならないことを他者や社会,あるいは,境遇や運命のせいにしては,他者や社会を恨んだり,責め立てたり,恵まれない境遇や不運を呪ったり,嘆き悲しんだりするような,被害者意識の強い他罰的(他責的)な人間になってしまったりしがちです。しかし,人生は本来ままならないものなのですから,その事実をあるがままに受け入れられない限り,人生は,期待を何度も裏切られては失望するだけのものになってしまう危険性があります。