「考えてみれば,人生は荒れ野の旅路のようなものである。・・・「旅は道づれ,世は情け」という。ながいながい曠野の旅において人をはぐくみ,人を力づけてくれるものは〈人の心〉である。」(『中村元選集第18巻 原始仏教の社会思想』,平凡社)
○現在の日本のような豊かで安全で便利な社会で暮らしていると,人間は独りでは(孤立無援の状態では)生きていられないという事実をついつい忘れてしまいがちです。そして,自分の欲望を充足させることばかりを優先させては,他者を有限のパイを奪い合う競争相手と見なすようになってしまいがちです。しかし,改めて言うまでもなく,実際には,人間は支え合い,助け合ってこそ,このままならない人生を生きていくことができるのです(例えば,生きていくのに欠かせない衣・食・住のどれ一つを取っても,完全に自給自足できている人などいないはずです。)。人生に付き物の困難や苦労をたった独りの力で乗り越えていくのは不可能です。要するに,私たちと他者は持ちつ持たれつの相互依存関係,すなわち,「一蓮托生(いちれんたくしょう)」の関係にあるのですから,他者を競争相手(敵)と見なして足を引っ張り合ったり,有限のパイを奪い合ったりするような生き方ではなく,自分の欲望充足ばかりを優先させるのではなく,他者を協力相手(味方・仲間)と見なして仲良く助け合ったり,有限のパイを分かち合ったりするような生き方をこそ目指したいものです。(1)(4)(6)(11)(17)(20)関連