「人の胸のうちには,誰しもそれぞれに聖人が宿っている。ただ自分でそうと信じきれないために,みんなそれをみずからの手で葬ってしまっている。(王陽明)」(『人類知抄 百家言』,中村雄二郎,朝日新聞社)
○生まれ付きの善人,生まれ付きの悪人などというものは存在しませんし,完全な善人,完全な悪人などというものも存在しません。誰の心の中にも例外なく,善人と悪人が同居しています。善人の真似(まね)をして善人として振る舞い続ければ,その人は善人と呼ばれ,悪人の真似をして悪人として振る舞い続ければ,その人は悪人と呼ばれるというだけのことです。善人として生きるのも,悪人として生きるのも,自分次第なのですから,どちらとして生きるのが自分にとって本当に得な生き方なのかということを慎重かつ真剣に考え,くれぐれも間違った選択をして一生を台無しにしないようにしたいものです。また,長年悪人として振る舞い続けていると,自分の心の中に善人が住んでいることを忘れてしまいがちですが,人生に絶望して自暴自棄になってしまわないようにするためにも,自分の心の中には悪人だけでなく,善人も住んでいるのだということを,決して忘れないようにしたいものです。同様に,長年善人として振る舞い続けていると,自分の心の中に悪人が住んでいることを忘れてしまいがちですが,謙虚さや慎み深さを失ってしまわないようにするためにも,自分の心の中には善人だけでなく,悪人も住んでいるのだということを,決して忘れないようにしたいものです。(17)関連