「贅沢品や娯楽品に関するかぎり,第一級の賢人たちは,貧しい人よりもさらに簡素でつましい暮らしをいつもしてきた。・・・外面的な富の点では誰よりも貧しく,内面の富では誰よりも豊かな人びとだった。」(『ウォールデン』,ヘンリー・D・ソロー,酒本雅之訳,筑摩書房)
○物質的(経済的)な豊かさと心の豊かさは,まったく別のことです。物質的な豊かさを求めれば求めるほど,心は貧しくなるものです。なぜなら,物質的な豊かさには限りがなく,求めれば求めるほど満足することが難しくなり,たとえどれだけ多くの物を手に入れたとしても不満ばかりが募っていくからです。実際,私たちが現在暮らしているこの社会は,物質的には人類史上最も豊かな社会と言えますが,私たちの心は,果たして昔の人たちの心に比べて豊かになったと言えるでしょうか。むしろ,貧しくなっているのではないでしょうか。もちろん,社会から貧困がなくなることは良いことですが,これだけ社会が物質的に豊かになったのですから,私たちはそろそろ,物質的な豊かさをある程度は犠牲にしてでも,心の豊かさを追い求める方向に舵(かじ)を切る(取る)べきなのではないでしょうか。自分の欲望に自分の意志でブレーキを掛けることによって,たとえそれが必要最小限の物であったとしても,自分が持っている物だけで満足できるように(簡素でつましい暮らしにさえ生きる喜びや幸せを無限に見いだせるように)なりたいものです。(4)(6)(14)(21)関連