ここ数十年における社会の進歩・発展や生活水準の向上には目を見張るものがありますが,社会が進歩・発展し,生活水準が向上したことで,私たちの幸福度は本当に上がっているのでしょうか。また,「衣食足りて礼節を知る」と言いますが,暖衣飽食(美衣美食)の時代に生きている私たちは,本当に礼儀正しく節度を備えた人間と言えるでしょうか。今後さらに社会が進歩・発展し,生活水準が向上していくことで,私たちの幸福度は本当に上がっていくのでしょうか。私たちがより礼儀正しく節度を備えた人間になってく見込みはあるのでしょうか。もちろん,社会が進歩・発展し,生活水準が向上したことで,私たちの幸福度が上がった面や私たちが礼節をわきまえるようになった面もあるとは思いますが,社会が豊かになったことで,私たちは,互いに支え合ったり助け合ったりする必要性が低下したこともあり,自分の欲望の充足ばかりを追い求めるようになり,欲望の肥大化に歯止めが掛からなくなってしまった挙げ句,むしろ礼節を失うとともに,どのような恵まれた状況にも満足できなくなってしまい,自分の人生に不平不満ばかりを募らせるようになってしまっているのではないでしょうか。もし社会の進歩・発展や生活水準の向上と私たちの幸福度や礼節の度合いが比例していないとしたら,あるいは,物質的な豊かさに心の豊かさが伴っていないとしたら,これまでの延長線上に社会が進歩・発展し,生活水準が向上し続けることに,いったいどのような意味があるのでしょうか。私たち人類は,このような社会や生活水準を手に入れるために,これまでにどれだけ多くの物を失い,犠牲にしてきたのでしょうか。また,このような社会や生活水準を維持し,さらに進歩・発展又は向上させていくために,この先どれだけ多くの物を失い,犠牲にしようとしているのでしょうか。