「男は,自分を理解してくれる者のために死ぬ(史記より)」(『枕草子(日本文学全集07所収)』,酒井順子訳,河出書房新社)
○「男は,自分を理解してくれる者のために死ぬ」という言葉がありますが,これは,他者に自分を理解してもらうことが,それほどまでに稀有(けう)で有り難い出来事であるということを示しているのではないでしょうか。人間は自惚(うぬぼ)れやすい生き物であり,私たちは,自分は周囲の人たちから理解され,評価され,期待されている,自分がいなくなったら周囲の人たちが困り,悲しむなどと勘違いしがちですが,実際には,周囲の人たちは,私たちが自惚れているほどには私たちのことを理解も評価も期待もしてくれていませんし,私たちに対して関心さえそれほど強くは持ってくれていません。それは,私たちが周囲の人たちに対してそれほど強くは関心を持っていないのと同じです。私たちがいなくなっても周囲の人たちは何も困らずに生きていきます。そのような周囲の人たちの評価ばかりを気にして,自分が本当にやりたいと思える好きなことを諦めてしまったり,自分が進むべき道(自分なりの目標や理想)を見失ってしまったり,自分の信念を捻(ね)じ曲げてしまったりすることほど馬鹿らしいことはないのではないでしょうか。他者からの評価など気にせず(気にするとしても,自分が本当に尊敬し,敬愛している相手からの評価くらいにとどめ),自分が本当にやりたいと思える好きなことに打ち込んだり,自分が信じる目標や理想に向かって自分が進むべき道を前進し続けたり,自分の信念や自分が本当に納得することのできる(自分に恥じることのない)生き方を貫き通すことなどにこそ,気持ちを集中し,力を注ぎたいものです。(11)(12)(13)(14)関連