「わたしはある日すっかり消えてしまう,と強く実感して初めて,命はかぎりなく尊い,という思いもこみあげてくる。まるで一枚のコインの裏と表だ。」(『ソフィーの世界』,ヨースタイン・ゴルデル,池田香代子訳,NHK出版)
○何事にも一長一短(肯定的な側面と否定的な側面)があり,死という否定的に捉えられがちな現象にさえ肯定的な側面はあります。実際,もし人間が不死身であったら,地球は人間で溢(あふ)れ返ってしまいますし(あるいは,新たに人間が誕生する余地がなくなってしまいますし),そもそも,死があるからこそ生きる喜びがあるのであり,生きる喜びがあるからこそ私たちは,生きていることやこの世の中に生まれてきたことに感謝したり,幸せを感じたりすることができるのではないでしょうか。死という現象がなかったら,私たちは,生きていることそれ自体に喜びや幸せを感じることができなくなってしまいます。しかし,生きていることそれ自体に喜びや幸せを感じることができればこそ,私たちは,たとえどのような逆境にあろうとも,たとえどのような不運に見舞われようとも,生きている限りは幸せであり続けることができるのではないでしょうか。なお,死という現象を意識から遠ざけてしまうと,生きる喜びが自然に薄れ,生きていることやこの世の中に生まれてきたことに感謝したり,幸せを感じたりすることが難しくなってしまいます。生きていることそれ自体に喜びや幸せを感じ続けていられるようにするためにも,命は儚(はかない)いものであるという事実を常に念頭に置きながら,「生きてるだけで丸儲(まるもう)け」(さんま)という気持ちで生活するように心がけたいものです。(8)(9)関連