「貧乏が楽しいものになったら,それはむろんもう貧乏ではない。所有の少ない人ではなく,渇望の多い人が,貧しいのです。(セネカ)」,「足ることを知らば貧といえども富と名づくべし 財ありとも欲多ければこれを貧と名づく(往生要集)」(『ローマの哲人 セネカの言葉』,中野孝次,岩波書店)
○経済的な豊かさと心の豊かさは,まったく別のことです。実際,たとえどれだけ多くの物を持っていようとも,欲が深く,それだけでは満足できないのなら,心は豊かになりようがありません。他方,たとえ必要最小限の物しか持っていなかったとしても,欲が少なく,それでだけでも満足できるのなら,心は自然に豊かになります。心豊かな人生を送りたいと願うのであれば,より多くの物を手に入れることにではなく,持っている物の多寡にかかわらず(たとえそれが必要最小限の物であったとしても),自分が持っている物(自分に与えられている物)だけで満足できるように自分の欲望の肥大化にブレーキを掛けられるようになることにこそ,関心を払い,力を注ぐべきなのではないでしょうか。質素でつましい生活も,その価値を得心できないまま他者に強制されれば,ただの貧しくて惨めな生活かも知れませんが,足るを知る人が,その価値を十分に納得した上で自分の自由意志で選択した場合には,きっと自分が持っている物の豊かさや,自分がそれらの物を持っていることの有り難さなどをかえって実感しやすい,心豊かで味わい深いシンプルライフになり得るはずです。(4)(6)(14)関連