「マタギとして山に入り,山の神様に守ってもらうためには,人間の性(さが)である欲深さを封じ込め,意識や感覚をできうる限り獣の領域まで近づけなくてはならない。」(『邂逅(かいこう)の森』,熊谷達也,文藝春秋)
○欲望は生の証(あかし)であり,欲望を満たそうとすることは,生き物にとって自然なことです。しかし,人間の欲望は,苦しみや悲しみの種でもあります。人間の欲望は,必ずしも本能に基づくものではないだけに,放置すればとどまる所を知らず,どこまでも肥大化していくからです。したがって,私たちは,自分の欲望に意識的にブレーキを掛け,その肥大化を抑えない限り,いつまでたっても自分の人生に満足することができず,常に不満を抱えたまま,自分の欲望に追い立てられ,振り回され続けることになります。そして,いつしか,不平不満ばかりを募らせては,自分は不幸であるなどと思い込むようになってしまいます。そのような不幸な状況に陥らないようにするためにも,必要以上に欲張ることはやめ(自分の欲望の奴隷になってしまわないように自分の欲望に意識的にブレーキを掛け),常に小欲知足を心がけ,たとえそれが必要最小限の物であったとしても,自分が持っている物や自分に与えられている物だけで満足できるようになる必要があるのではないでしょうか。そのためにも,自分が今ここでこうして生きていられることの有り難さに常に深く思いを致し,その有り難さをしっかり心に刻み,感謝する気持ちを忘れないようにしたいものです。(4)(6)関連