「やがて大きな町になると,どうしても道義が退廃していくということは避けられなかったと思います。・・・文明が爛熟しますと,いろいろな腐敗が起きてきます。」(『原始仏典を読む』,中村元,岩波書店)
◯社会が物質的に豊かで便利になるにつれ,私たちの欲望は肥大化し,歯止めが掛からなくなっていきます。そして,欲望を充足させることが人生の最優先事項になり,その他のことは蔑(ないがし)ろにされるようになってしまいます(欲に目が暗み,本当に大切なものが分からなくなってしまいます。)。しかし,肥大化する一方の欲望が充足されるはずもなく,結局は,徒労の末に不平不満ばかりを募らせては,いま自分の目の前にある幸せに気づくことさえ難しくなってしまったり,他者を競争相手と見なして敵対しては,孤立無援の状況に陥ってしまったりしがちです。生きる喜びに満ちた幸せな人生を,思い残すことのない充実した人生を,他者と助け合い,幸せを分かち合えるような有益な人生を本当に望むのであれば,この物質的に豊かで便利な社会を当たり前と思うことなく,自分が今ここでこうして生きていられることの有り難さを常に感謝しつつ,強い意志を持って意識的に欲望の肥大化を自制する必要があるのではないでしょうか。(2020年5月2日)