「財産というものは,いつも数かぎりない競争者と争ってこれを守らねばならず,しかもそれに成功しても,失敗しても,いずれにせよ悔恨を残すに過ぎない。」(『幸福論(第一部)』,ヒルティ,草間平作訳,岩波書店)
◯財産に執着すれば,それを手に入れるために,あるいは,それを守り続けるために,他者を競争相手(敵)と見なして競い合い続けなければならない。そして,その競争に負ければ,不平不満や被害感を募らせたり,恨みつらみの感情をこじらせたりするだけの結果に終わる可能性が高く,その競争に勝ったところで,その人間が幸せであるとは限らない。欲望の肥大化を自制できない人間は,どんなに多くのものを手に入れても満ち足りるということがないし,他者と敵対し,他者に対する感謝の気持ちを忘れた人間が,生きる喜びに満ちた有益な社会生活を送れるとは思えない。(2020年3月9日)